5年間、学生のスピーチ指導で感じたこと

                                            S40卒・堀田純三

英語学会創設100周年記念事業の一環としてOB杯英語弁論大会を立ち上げて欲しいとの話を5年前に、当時のOB会役員から頂いたのがことの始まりでした。当時の英語学会会長・石川丈夫君との協力で小生の40年程前を、自分の記録と記憶で思い出しながら、何とか成功させたのがつい昨日のことのように思い出されます。今では学生の間にすっかり定着し、OBとしての支援を書類選考や原稿添削、そしてスピーチそのものの指導に集中できる状況にまで進化してきています。

小生以外のOB関与として書類選考を初年度、S29卒中村健、S37卒久松両氏に支援頂き、4回目、5回目にはそれぞれS35卒荒木、S36卒井関氏の協力も得ています。スピーチ指導では最初の3年間、中村健さんの支援も得ました。決勝の審査員については、初回、2回目を、残念ながらその後故人となられたS26卒市川氏のお骨折りで当時の立川米軍基地将校夫人にお願いし、3年目はOB各位 (S29卒中村、S36卒雁金、S39卒金子氏)に、更に4、5回目はTOEFL在籍のS41卒嶋本氏紹介で英国人Mr. Terence Yearleyにお願いしました。尚、Yearley氏は日本人に英語を教える先生達に英語を指導する立場にあり、日本に長期滞在が予定されているため今後も適任者として期待できそうです。

さて、前置きはこのくらいにして肝心の英語指導で感じたことを思いつくままに少し述べさせて頂きましょう。英語力は、コンテストをご覧になった皆さんのおっしゃる「最近はレベルが上がった」というのが本当かどうかは別として、実感としては矢張り中高での指導がうまくできていない気がしています。その証拠として、短期間の指導なのにかなりの人の英語が格段に進化したことが揚げられます。英語を勉強しようという意思がよく見えるようになります。小生は、そんな結果を見られる楽しみでこの役を演じさせて頂いているとも言えます。こちらのコンテスト入賞者が歴代、中央大学の英語スピーチコンテストに書類選考から挑戦してきました。一昨年はお蔭様で、OB総会でも紹介させて頂いた平川裕子さんが優勝するという栄誉を勝ち取りました (帰国子女が多く参加していたこの大会は、残念なことに昨年限りで消滅したと聞いています)

さて、指導中に経験したり感じたりしたことを、いろいろな観点からエピソード的に紹介してみることにします。これをきっかけに、更に多くの方が英語の再勉強に意欲を出されんことを祈りつつ。

基本的なところでは、sheseeの区別が逆になっている人や、gとzの区別が難しい人が結構多いのに驚きました。この背景には日本語のカタカナ表記に問題があるかもしれません。例えばAをエー、Cをシーと表記したり、ディズニー・シーDesney Sea)、シー・ユー・アゲイン(see you again)、アイ・シーI see)、フィズィーFiji)、オージーAussie)、ビジーbusy)、ニュージーランド(New Zealand)、まだまだ枚挙に暇が無いくらいです。

次に和製英語があるために苦戦している部分も多く見られます。小生はよく例に出すのですが、野球用語がその典型と思われます。例えばフォアボールwalkですし、ランニングホームランはinside-the-park home run、などです。フォークボールはbraking ballで、クロスプレーはcloseklo'usplayです。こんなことはMLBMajor League Baseball)を英語で見ていれば直ぐ判りますし、知ればより楽しく英語が学べるわけです。ついでに良く出てくる言葉をいくつか紹介しておきますと、RBI (Runs Batted In)が打点でERI (Earned Run Average)が防御率、得点がRun、イニングの表裏はTopBottomです。野球に限らず、かつて大橋巨泉氏が痛烈に批判していた時期がありますが、和製英語が多過ぎます。それが英語らしく聞こえるため、英語を勉強する者にとっては余計に混乱を起こすのです。食品表示ではありませんが、カタカナ英語を見たら「本当に英語なのかな」と疑った方がよいのかもしれません。自分が学生としてNY滞在していた時に何度か工場の部品調達に関する商談の通訳をさせられたことがありますが、苦戦したのは正にこの問題でした。依頼人は英語が話せないが専門用語の英語は知っている、と言う。しかしその専門用語が和製英語だったりするのです。こちらは部品そのものの内容が解らないので、詳細にその場で日本語説明を受け、自分が納得してから改めて説明すると単語が全く違っていたりする。少なくとも、こんなことがあるということを知っておく必要があるのです。

更に、日本語と英語の基本的な言葉としての違いから来る難しさがあります。RとLの違いに加えて、日本語のラリルレロは更にRでもLでもないのです。Fは下唇の内側を噛みますし、THは上の歯の内側に舌を付けると発音しやすい、などです。こんなことは一度聞けば練習で習得できます。難しいことのひとつに誰もが揚げるのが、母音を含まない部分の発音です。日本語は全て、あいうえおの母音を伴いますので、この発音に慣れていませんから時間がかかりますが、これができると急に英語らしくなってくることを覚えておいてください(例:tryspringfrustrationstraightstrongbringproudproblemstrategy、など) 。複数やいわゆる三単現のSで濁る場合の音もはっきり発音することが大事です(例:goeslovesbrothersnamesfriendsopportunities、など)

間違い易い発音も、大学受験時に学んだ筈ですが、いろいろあります。
eia, same, fame, game, baseball, changet∫e'in(d)з, rangere'in(d)з
ouo, goal, boat, cold, though, although, don’tdo'unt, won’two'unt
:thought, fought, taught, caught, brought
α :heart, march, mark, mart, park
э :earth, hurt, occur, circle, pearl, year, ear, searchなど

特殊発音も要注意です。
victualvi'tl, Arkansasα':(r)kэns:, Tucsontu': sэn, Navajonae'vэho`u San Josesaen-эze'i, debutdib(j)u':, musclemΛ'sl, subtlesΛ'tl
tombtu':m, combko'um, bombbα'mなど

また、辞書に出ている言い回しでもネイティヴ・スピーカーには通じないことも結構多いので、できるだけ本物の英語に触れて英語的感覚を身につけ、その都度選択眼で選択肢の中から自分で選ぶことも重要なのです。その意味では小生を含めて弛まぬ努力が必要とされています。英語に触れるチャンスは多いですから昔よりはるかに楽ですが。

アクセントとイントネーションも大きな要素です。彼らの言語は単語一つ一つに必ずアクセントがあります。したがってアクセントの弱い日本語や韓国語のようにフラットに発音すると英語を母国語とする人には聞き取れない場合が多々あります。そして単語がつながるとイントネーションも音楽のメロディーのように必要となってくるのです。アクセントは発音記号を注意深く見ることで解決できますが、イントネーションはどうしても本物をリズムやメロディーとして聞くことしかありません。余談ですが、「発音が悪くても通じればよい」と言う人がいますが、これはあくまでも日本に長くいて日本人の発音に慣れた人には通じることがありますが、そうでない人達には通じ難いことも多いと覚えておいてください。因みに小生は、22年間英国企業で英国人を上司に持ち働きましたが、国内で問題なくても出張して現地プレゼンテーションを行うと愕然とすることがよくありました(内容はもとより、話すスピードも全く異なりましたし)

最後になりましたが、スピーチではテーマの選び方、文章作成力、起承転結のバランスなどが重要ですが、この問題ばかりは短時間で習得できませんし、英語の勉強だけでは片付けられない問題です。話し言葉なので文章はなるべく長くならないようにすることが聴衆の理解につながります。特に、日本人の思考は複雑で、関係代名詞で二重、三重に繋げてしまう傾向があります。日本人同士ですと何を言いたいのか想像で絵が描けますが、欧米人には一番解り難い部分になってしまいますので注意が必要でしょう。そんなことをいろいろ念頭に置きながら、普段から意識的に訓練する以外に方法は無いと思います。その意味では生涯が勉強ですから、楽しみながら趣味として英語を続けるくらいの心がけが必要なのかもしれませんね。せっかく持っている若い人の潜在能力を目一杯伸ばして欲しいものだと思っています。一番力が伸びるのは今ですから。

                                             以上、平成19年10月記