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伝統芸能


2018年11月25日(日)
  「声明と平曲を楽しむ会」が開催されました


新井住職


 2018年11月25日、所沢の宝玉院で「声明と平曲を楽しむ会」(第72回目)が開催されました。
 第1部は声明で、宝玉院住職の新井弘順師による「往生講式」という曲が披露されました。
 「声明」というのは、僧侶が儀式の時にお経に節をつけて唱えるもので、いわば仏教の聖歌ともいえるものです。仏教とともにインドで生まれ、中国や朝鮮半島を経由して日本に伝わりました。仏教が日本に伝来したのは6世紀ですが、声明は752年に東大寺大仏の開眼供養が行われた際に披露されたと言われています。
 新井弘順師は真言宗の声明指導者で、国立劇場など各地での催しや海外公演など幅広い活動を行っており、天台の声明家とともに「声明の会・千年の聲」を設立し、古典の継承・普及に努める一方、新作声明にも積極的に取組んでいます。
 曲の内容は難しくてよく理解できないところもありましたが、極楽世界へいざなうための物語風の声明と言ったもので、ご住職の朗々たる声が堂内に響き渡りました。


内田亜希さん

 第2部は平曲で、内田亜希さんによる「濱軍(はまいくさ)」と新井泰子さんによる「落足(おちあし)」が披露されました。
 平曲というのは、平家物語を平家琵琶の伴奏で弾き語る語り物のことです。室町時代までは盲人演奏家によって伝承されましたが、江戸時代に入ってからは晴眼者でも演奏する人が現れ、現在に伝えられています。
 平家物語の成立についてはいまだ定説はありませんが、「徒然草」には信濃の前司行長(ゆきなが)という人が、平家物語を作って生仏(しょうぶつ)という盲僧に教えて語らせたと出ています。その後南北朝時代になると、検校(けんぎょう)明石覚一(あかしかくいち)という盲人が詞章・曲節に改良を加え、現在の平家物語のような形に整えたとされています。「当道」という盲人の位階制度ができたのも覚一のころで、総検校を頂点とし、検校、別当、勾当、座頭という官位があり、その中がさらに16階73刻みに細分されていました。


新井泰子さん

 平家物語は全部で200句あり、この句全部を語ることができる伝承者は現在では数人のみと言われており、今回演唱した新井泰子さんと内田亜希さんはその数少ない伝承者です。
 内田さんの演目「濱軍」は、一の谷で源氏の猛攻を受けて落命する平忠度や敦盛などの最期に続く句で、新中納言知盛の子息の武蔵守知章(ともあきら)の最期の様子と、父を護るために犠牲になった彼を見殺しにしてしまった知盛の痛恨の情が語られます。
 「落足」は、一の谷におけるその他の多くの武将の最期が語られるのですが、こちらの聴き所は何と言ってものその詩曲の美しさです。激しい戦の情景が語られたあと、幼い主上(安徳天皇)を擁して、当てどもなく逃れて行く平家の人々の哀れさが琵琶の伴奏で語られます。


──いくさやぶれにしかば、主上をはじめ参らせて、人々みな御舟に召して出でさせ給ふこそ悲しけれ。……泊り定めぬ梶枕、かたしく袖もしほれつつ、朧に見ゆる春の月、心をくだかぬ人ぞ無き、あるいは淡路の瀬戸を押し渡り、絵島が磯に漂へば、波路はるかに鳴き渡り、友まよはせる小夜千鳥、これも我が身のたぐひかな──


2018.11.26 三沢充男


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