第2回定時総会講演会
カナダ大使館広報部学術交流担当官
パトリシア・ベィダー・ジョンストン氏講演要旨

『外国人の目から見た日本』
1994.6.11
新宿モノリス29
(「白門41会だより」第3号より)
トピックス総目次

 世界各国から集まる留学生を、 カナダは全体として温かく迎えます。 カナダ社会はもともと移民によって作られた社会ですので、 外国語の学習や異文化に適応することの難しさを私達はよく知っています。 色々な訛りのある英語を聞くことは、 (家庭内でさえ)珍しくありません。 同じカナダ人の間でも家庭の習慣や個人の行動に違いがあることを私達は当然だと思っています。 そのため、 世界各国からの留学生達はカナダの日常生活に容易に溶け込み、 短期間で適応することができます。 初対面でカナダ人と間違えられてびっくりする留学生もいることでしょう。
 日本人留学生は、 清潔で礼儀正しく勤勉な学生というイメージかありますので、 特に歓迎されます。 日本は、 カナダにとって2番目に大きな貿易相手国です。 日本文化や、 日本が国際舞台で果たす役割についてのカナダ人の理解は、 着実に深まっています。 日米間の貿易摩擦が、 日本カナダ間の友好関係と混同されることがしばしばありますが、 カナダの対日関係と日米間の関係は著しく異なります。 二つの関係ははっきり区別しなければなりません。
 日本語を学ぶカナダ人の数は、 5年前にはわずか数百人でしたが、 現在では一万三千人を越えています。 カナダ人はその民族的結びつきなどのために、 伝統的にヨーロッパと米国に関心を向けてきました。 しかし現在では、 特に到着する移民の中に含まれるアジア人の数がますます増えている事もあって、 アジア太平洋地域との関係の重要性への理解は次第に深まっています。 しかし、 カナダとアジアとの交流、 特に日本との交流は、 決して新しいものではありません。
 カナダと日本との交流は、 カナダの歴史の初期にまで遡ります。 カナダが正式に誕生したのは1867年の事ですが、 その直後から、 両国の間では小規模な貿易が行なわれました。 日本からカナダへの最初の移民が到着したのは1800年代の末のことです。 この人達の子孫は現代のカナダで立派に社会を形成しています。
 明治維新以来、 カナダ人の教師や宣教師、 医師、 看護婦等が日本にやって来るようになりました。 この人達が残した業績は、 大学や病院となって現在に引き継がれています。 カナダ人宣教師が立てた学校で現存するものとしては、 関西学院大学が一番古く、 その他にも、 上智大学、 東洋英和女子学院など数多くあります。
 カナダの通商事務所が初めて日本に開設されたのは1904年で、 両国間の外交関係が確立されたのは1928年でした。 この時期はカナダが米国、 フランス、 英国とも外交関係を樹立した時期にあたり、 カナダが対日関係を早くから重要視していたことがわかります。 カナダ大使館が現在の所在地に開設されたのは、 1933年のことです。
 外交関係は第二次大戦中に短期間断絶されましたが、 1952年に復活しました。 在東京のカナダ公館は1946年に再開されています。 戦争はカナダの歴史と日加関係に暗い時代をもたらしました。 短い期間でしたが偏狭な人種偏見が寛容の精神を押し潰し、 日系カナダ人の抑留という忌まわしい出来事が起こりました。 最近になって、 被害者の家族に補償金が支払われました。 大多数のカナダ人は、 文化的に極めて多様な我が国のモザイク社会で求められる、 人種間の融和と理解の必要性を認識して、 補償金の支払いを支持しました。
 日系カナダ人が第二次大戦中に払った犠牲及びその他の移民グループがそれ以前に払った犠牲は、 カナダ政府の政策と国民の態度に大きな影響を及ぼしました。 カナダ市民が享受する権利のいくつかは、 「カナダの権利と自由の憲章」 の中で確立され、 憲法にもうたわれています。 これらの権利は平等を保障し、 人種、 性別、 宗教に基づく差別を禁じています。
 このような保護規定は、 カナダで学ぶ外国人学生にも恩恵を与えています。 カナダ人は、 周りの人達が皆同じ行動をするとは期待しません。 外見や行動が異なっていても驚きません。 カナダは平和を愛する国、 従って安全な国として広く知られています。 このことが、 外国人学生の留学先として、 カナダが好まれる理由のひとつとなっています。
 現在カナダに留学している日本人学生は、 七千人近くにのぼります。 学生ビザを持っている人の約半分はハイスクールで学んでおり、 残りは語学校、 コミュニティー・カレッジ、 または大学の学生です。 カナダに留学する外国人学生の出身地の中で、 日本は、 香港、 米国、 フィリピンに次ぐ、 第4位にあります。 外国人教育は、 ますます重要な産業となっており、 カナダの輸出産業としては、 小麦に次ぐ第二位の輸出量を維持しています。 (教育産業の輸出量は、 カナダに留学する外国人学生の数及び海外向けに販売されるカナダの教育サービスまたは製品の量で測定されます。) 全世界の留学生の数は、 1991年には150万人に達しました。 カナダは受け入れ国の中では6番目にあり、 毎年、 世界の留学生全体の3%を受け入れます。
  一方、 留学生受け入れによるカナダ経済への貢献は、 150万カナダドルに近く、 これは、 19,000人分の雇用を作り出すことに相当します。 また、 留学生の受け入れは、 カナダの教育機関に刺激を与え、 その提供する教育や訓練の質を高め、 長期的には、 国際貿易関係の改善に寄与する非常に大きな波及効果を生み出します。 外国人学生の方々が、 カナダ滞在中にカナダの製品や政策に親しんで下さり、 それが基となって、 カナダの製品やサービスがより広く受け入れられるようになり、 ゆくゆくは、 カナダ企業との合弁事業や技術移転、 ビジネス提携等に発展する事になれば、 喜ばしいと思います。 カナダにとって、 外国人学生の皆様は、 大事なお客様であることは明らかです。
 これまでは、 外国人留学生がカナダに何を寄与しているかについて、 お話しました。 一方私達が外国人留学生の皆様に、 カナダで体験して欲しいと願っている、 体験の内容もまた重要です。 カナダでの留学生活が楽しい体験でなければ、 留学のもたらす最大の利点の大部分が失われてしまいます。 留学生の皆様には、 カナダでの学習体験と個人体験に満足して 「カナダの友人」 となって帰国して頂かなければなりません。 明日の世界の指導者となる留学生の皆様が、 カナダへの親近感を抱かれることは、 日加関係の将来に大きな影響を与えます。 留学生の皆様にカナダが提供する教育の水準については、 世界でも第一級クラスであると自信をもって申し上げる事ができます。 国民一人当たりの教育投資額では、 カナダは日本を含む世界のどの国よりも勝っています。 カナダの高等教育機関は、 ほとんど全てが公立で、 連邦政府と州政府が供給する資金によって運営されています。 そのため、 授業料が英語圏諸国の中で最も安く、 年額平均2,000カナダドルです。 また、 教育の質も高く、 大学教育の水準は全国何処でも格差がありません。
 この数年来、 日本からの留学生の数は増加しています。 (1987年から現在までに330%増加しました。 ) 昨年、 大使館を通じて調査をした結果、 増加の原因は、 カナダは安全な国であり、 生活費は安く、 質の高い教育を提供する国であると日本人学生が考えているためであることがわかりました。 カナダの学校や教育プログラムは、 高い評価を受けており、 日本人留学生の皆様は、 人種差別を意識することがありません。 カナダの教育システムはわかりにくいと思われる方もありますが、 それは日本同様、 教育は連邦政府よりも州政府の管轄になっているからです。
 留学生を外国から受け入れたり、 外国に送り出したりする国際教育活動は、 カナダに長期的な利益をもたらしますが、 それは、 提携関係の成立や、 協力ネットワークの形成という形で表れます。 明日のビジネスマン、 明日の指導者、 明日の市民となる人達は、 外国留学の体験から、 国際感覚と寛容の精神と、 ますます一体化が進む世界社会によりよく対応する能力を身につけられる事でしょう。 異文化と異民族に対する寛容の精神は、 世界の平和と繁栄を支える基礎であり、 社会の教育水準の向上と相俟って、 全ての国の安定と幸福を約束するものです。 今日の国際教育活動からこのような成果が生まれる事を私は願っています。