歳時記
2026年4月27日(月)
モクレン
一般に私たちが「モクレン」と呼ぶのは、濃紫色の花をつけるシモクレンのこと。早春に白い花を咲かせるのはハクモクレンで、シモクレンが樹高4mほどの低木なのに、ハクモクレンは15m以上にもなる高木である。
この花の歴史は1億年以上も昔にさかのぼる。現存するあらゆる花の重要な先祖の一つと言われ、被子植物が地球上に現れたばかりの頃から、現在のような花形をしていたことが化石によって証明されている。それは、モクレンの花粉を運ぶ昆虫にとって都合の良い形であり、虫たちもまた1億年前の姿のままでいるからだとか。このモクレンを原産地の中国では、高貴な花として、寺院や宮殿などに植えた。
18世紀にヨーロッパに渡り、積極的に品種改良が進められ、多くの園芸品種が作り出された。その改良技術はアメリカにも伝わり、シモクレンとシデコブシなどを交雑した「ガール・マグノリア」と呼ばれる品種群も誕生した。日本にいつ渡来したのかは不明だが、中国に習ったためか寺社に多く植えられている。
春の日を浴びて咲くその優雅な花姿は中国の佳人を思わせ、花言葉も「自然への愛」「荘厳」「壮麗」と、気高いイメージが与えられている。
名前の由来は、ハス(蓮)の花に似ていて、木に咲くことから、木蓮と名付けられた。シモクレンは別名「木蓮華」、「木蘭」ともいわれ、ハクモクレンは別名「白木蘭」、「玉蘭」、「白蘭」などと呼ばれる。
同じモクレン属の一つに「辛夷(コブシ)」がある。雪どけ間もない山野に、浮き立つように咲くコブシの花。日本各地に自生し、ほかの花木に先駆けて早春に咲くコブシは、農民にとって季節の変化を告げる暦の役割を果たしてきた。
「コブシが咲いたからそろそろ田仕事にかかろうか」。農村の人たちは春の農作業の目安としたのである。
また、葉が出る前に花が満開になるさまがサクラに通じるためか、東北地方では「田打ザクラ」、「種時ザクラ」とも呼ばれた。信州ではコブシの開花に合わせて味噌を仕込み、この時期に作った味噌を「花ミソ」と呼ぶ。
清楚な花の下に強靭な生命力を秘めるコブシ、丈夫で耐寒性があり、北海道や東北にも自生するコブシの花が、厳しく長い冬を生きる北国の人々をいかに元気づけてきたかがうかがえる。
一方、樹冠が雪で覆われたかのような満開のコブシの花は、あまりにも美しく、どこかもの悲しい雰囲気も。壇ノ浦で敗れた平家の落ち武者が熊本の山奥に隠れたが、ある日、全山を覆うコブシの花を源氏の白い旗と錯覚し、自刃した、という悲しい伝説も残されている。
見はるかす山腹なだり咲きてゐる
辛夷の花はほのかなるかも
斎藤茂吉
山なみとほく春はきて
こぶしの花は咲きいでぬ
雲はるかかなたにかへれども
かへるべきもなき日の旅や
三好達治「花筐」より
我が家の西側の道路を隔てた向かいの家には白木蓮の花が、北側の道路を隔てた筋向いの家には紫木蓮の花が、今年も咲いた。我が家の庭では、枯山水の池の岸に植えた沈丁花の花が、香しい芳香を漂わせている。
三沢 充男