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2025年6月23日(月)
 カタツムリ

 今年の梅雨明けは関東地方では平年よりも一日早かったけれど、その前に雨の日もあったので我輩は何とか救われた。しかし最近は異常気象で、地域によっては豪雨に見舞われたところもあり、この後は平年よりも一層暑い夏を覚悟しなければならない。日照りが続くと我輩は居場所に困るので、さてどう過ごせばよいか心配だ(カタツムリの独り言です)。

 ところで、カタツムリとはどんな生き物なのか?
 カタツムリは陸に生息する貝の仲間(軟体動物)である。サザエやタニシ、ウミウシといった巻き貝(腹足類)の一種で、陸上での生活に適応しているため、肺呼吸ができる。
 カタツムリは動きが遅いと思っていたけれど、意外と早く動くらしい。先日も早朝ウオーキング(最近は出遅れると暑くて熱中症になる恐れがあるので、起き抜けの5時台にウオーキングに出かけることにしている。)の途中、細い山道の路上でカタツムリを発見した。このままでは日干しになってしまうのではないかと思って、傍にあった小さな木株の葉の上に移してやった。じっとしているのでそのままにしておいて、帰りに見るともう見えなくなっていた。注意深く探したら、木の中の奥の方に潜んでいた。(下の写真)

 そうはいっても基本的には移動能力が低いため、地域ごとにさまざまな種に枝分かれして進化していった歴史があり、その結果国内だけでも約800種類ものカタツムリが確認されている。ちなみに、カタツムリというのはあくまで総称であり、広く陸上の貝類を指すことが多い。
 カタツムリの特徴といえば、何より背中の大きな殻で、一般的な種類では5~6層のうずまき模様を持ち、一部の種類を除いてほとんどが右巻きである。
 殻の主成分は炭酸カルシウムで、殻の中には心臓や肺、消化器官などの内蔵が入っている。
 カタツムリにとって殻は体の一部であり、成長とともに大きくなる。ヤドカリのように自由に出入りすることはできないため、はがすと弱って死んでしまう。ただし、少し壊れた程度なら、傷を治すように自分で修復することができるらしい。
 一方、ナメクジに殻はないが、生物としてはカタツムリと同じ仲間である。共通のグループでありながらも、進化の過程で殻を不要とした種がナメクジと呼ばれるようになった。ナメクジは殻を捨てることで身軽さを手に入れた一方、人間からは「不快害虫」と見なされやすくなり、忌み嫌われる運命をたどることになる。
 カタツムリの多くは植物食で、藻類やコケ、葉や花びら、果実などを食べるほか、落ち葉や朽ち木も食べる。また、野生のキノコも好物のひとつである。殻を維持するにはカルシウムが必要なため、コンクリートを食べることが知られている。コンクリートの原料である石灰石などの炭酸カルシウムを含んだ石や土のほか、鳥などの卵の殻、死んだカタツムリの殻を食べることもある。雨水は弱酸性であり、コンクリート中の炭酸カルシウムが溶け出しやすく、カタツムリはよく雨の日のコンクリートに集まるらしい。
 カタツムリは春から梅雨にかけて産卵シーズンを迎えるのが一般的だ。雌雄同体であり、2個体が交尾をして、両方とも産卵する。一度に30~50の卵を産むが、無事に孵化できても鳥などの外敵に食べられてしまうことも多い。
 カタツムリにとって過ごしやすいのは春先や秋頃で、夏の猛暑や冬の厳寒時は休眠する。寿命は種類によって違うが、個体差も大きく、一概にはいえない。コハクオナジマイマイなどの1年しか生きない種もあれば、大型の種類やキセルガイなどは5年以上生きることもある。
 右写真は、喜多川歌麿が描いた蝸牛と轡虫(クツワムシ)の絵です(国立国会図書館コレクション「画本虫ゑらみ」より)。

 標掲の「かたつむりの歌」は、明治44年(1911年)の尋常小学唱歌(第1学年用)に掲載されました。
 陸に住む巻貝の一種である「かたつむり」は、古くは「蝸牛(かぎゅう)」とも表記され、「でんでんむし」の愛称でも親しまれている。でんでんむしの愛称の由来については、古典狂言の一つ「蝸牛(かぎゅう)」において、「でんでん むしむし でんでん むしむし」と繰り返し唄われる場面が関係しているという。
 そのあらすじは、次のとおりです。
 主人は、蝸牛[かたつむり]を進上すれば祖父(おおじ)の寿命が伸びるというので、家来の太郎冠者に蝸牛を捕ってくるよう命じます。しかし、蝸牛が何か全く知らない冠者に、主人は「頭は黒く、腰に貝をつけ、折々角を出し、藪にいる」と教えます。やがて藪の中を探して旅疲れで寝ている山伏を見つけた冠者は、山伏の頭が黒いので、起こして「お前は蝸牛か」と尋ねます。勘違いに気づいた山伏は、からかってやろうと蝸牛のふりをします。すっかり信じてしまった冠者が、主人の元へ一緒に来るよう頼むと、山伏は「囃子物(はやしもの)(狂言で明るく浮かれるように独特のリズムで謡い舞われるもの。小鼓・大鼓・太鼓の伴奏が入ることが多いが、演者自身が扇で拍子を取ったり、足拍子を踏んだり、楽器を打つなどして雰囲気を盛り上げることも多い。)の相手をするならば行こう」と言い、冠者に「雨も風も吹かぬに……」と囃させ、自分は「でんでんむしむし」と言いながら舞い、2人は浮かれ出します。そこへ帰りが遅いと業を煮やした主人がやってきて冠者を叱りますが、最後はつり込まれ、3人で囃しながら退場して行くのです。
 ところで、白門43会報の2019年から2022年までの次の号に、白門43会員の沢口みつを氏(筆名)が「通用口」と題した掌編小説を連載していますが、これは主人公他の登場者がすべてカタツムリです。興味ある方は参照されてみては如何ですか?
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三沢 充男


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