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会員だより —歌代雄七—

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2025年4月
  随想121 20億人

 生活に必要な水を確保できていない人は世界で多数いる。その数は20億人だ。
 その多くはアフリカ、インドなどで、世界人口の約3割が管理された水を使用できない状況にある。これら地域は、他の地域に比べて人口増加率が高く、今後、こうした地域で多少の浄水場施設の設置が進んでも、益々水不足の対象人口が増えることになろう。
 方策として、当然無尽蔵にある海水に目が向く。既に海水淡水化の技術は一定のレベルに達しているが、生成される水量は1日当たり1億立方メートル。単純計算では、4億人分ほどの量でしかない。
 その技術は逆浸透の原理を生かした技術で、濾し出すように真水をつくり続けるためには高い圧力が必要であり、当然動力となる電力が必要である。水不足の地域では概して電力事情が厳しい環境にある。
 然し、その課題解決に向けて今や日本の大学と法人が世界から脚光を浴びつつある。その大学名は東京科学大学(旧東工大)、また企業の1社は大阪大学のスタートアップで核融合発電を目指すエクスフュージョン社だ。両者が開発した基礎技術の最大の特徴は電力がほぼ不要だという点だ。
 仕組みはこうだ。ポイントは錫を使用することにある。太陽の集光熱で錫を摂氏300度まで加熱し、錫に海水を直接吹き付ける。これにより水分を蒸留し、真水となる。一方、海水中の鉱物であるリチウムやモリブデン、マグネシウムなどが分離抽出され、リチウムは核融合炉の燃料や冷却に使用される。
 単純にプラント内の原理はこうだ。海水は、浸透圧発生剤が溶け込んだ液と海水の間に東洋紡などが製造するFO膜を置くと、海水側から水分子が膜を通って溶液側に集まってくる。溶液は、加熱すると発生剤と分離して真水が得られる。このように新方式では、真水を分離させる発生剤と独自の膜が必要となる。その発生剤は日本触媒が、膜は東洋紡の関係会社東洋紡エムシーが担当している。
 この2025年には実証装置を拡大させ、冷蔵庫大からコンテナーサイズと規模を拡大させるスケジュールで進んでいる。そのコンテナーサイズで1日当たり1立方メートルの真水ができ、5人が生活に必要な水を確保できる見通しだ。

 一方、米企業との共同開発で大規模プラントを開発し、23年に1日500立方メートル水を海水から作る実証にハワイにて成功している。これから先には、その12倍の1日6,000立方メートルの規模を計画中だ。
 この規模のイメージとしては、小学校の標準プール規模の大きさは横16.5メートル、長さ25メートル、深さ1.3メートルで540立方メートル、54万リットルの水量となる、

 太陽の熱を使って真水をつくる日本の造水技術が、世界の水不足を解決する日も近いだろう。但し、先記の地域では、まだ課題を残している。
 それは経済的な面から、水道管の敷設が芳しい状況ではないことだ。

 扨て、プールと言えば……。25メートルもまともに泳げない筆者、今は昔だがジムに通って水中歩行を重ねた時期もあった。併せて当該の教室で、エアロビックスで汗を流し、併設されている風呂に入って爽快感を味わったものだ。
 然し、今やそのエアロはきつく感じ、場所を地元「市」の援助を受けた老人体操教室に変えた。その教室で多少汗を感じ、帰宅し我が家の湯船で身を沈め、目を瞑る。ジムの風呂をイメージして浸たり、時折プールを歩いたつもりで足をバタバタさせて……。
 年相応の生活パターンとなったが、なんとも安上がりの日々だろうか……。

2025年3月
  随想120 八

 今月は3月、節目の月だ。大半の企業は決算期を迎える。行政機関に於いてもそうだ。
 そして個人に於いても、一定の人が「卒」を迎える。
 その折に、当該期間は意義があり、幸せだっただろうかと、一瞬でも追憶ワールドに迷い込む人が多い。

 ここで蘊蓄を一つ。
 その昔、幸福と幸運は同じだと考えられていました。英語で幸せを意味するHAPPY。その語源となるHAP は、偶然や運という意味。いいことが、運よく起こることがHAPPYだったのです。
 その言葉が生まれたときは、幸福は運のいい人がなるものだと考えられていたのでしょう。ところが、今は違います。
 幸福と幸運は、別のものだと考えられるようになってきました。

 では、今月はその幸運について記してみよう。
 ところで、あなたにとっての「幸運の数字」は幾つありますか?
 ここで記した「幾つ」には、筆者は二つと応えます。
 筆者のそれは数字の1桁台の7,そして8の2つの数字に興味があり、若い時からゲン担ぎをしていた。その中でも「8」の方が「好き」の度合いが高い。
 今回のテーマは更に絞って、その最高に興味のある「8」にまつわる事項に触れてみたい。

 日本神話には「八百万神(やおよろずのかみ)」が登場し、古来より「八」という数字が「多数」の象徴として代名詞のように使われてきた。
 大阪の物流を支えたインフラを「八百八橋」、また江戸城下の繁栄ぶりを「八百八町(丁)」とも表現してきた。
 また「嘘八百」という成句があり、粋な古川柳に「嘘よりも八丁多い江戸の町」がある。

 将棋の名人、羽生善治さんが好む熟語に「八面玲瓏(はちめんれいろう)」がある。あらゆる角度から見ても透き通り、曇りのないさまを意味すると辞書は記している。
 八面と記せば、忙しく活躍する姿を「八面六臂」(はちめんろっぴ)」とも表する。
 読者も他に八の付く4文字熟語を数えてみて欲しい。
 筆者が思いつくまま列記すれば…
 八紘一宇、八方美人、四苦八苦、七転八起、岡目八目、四方八方……
 4文字ではないが、口八丁 手八丁、鬼も十八 番茶も出花……
 三種の神器で八咫鏡……

 因みに先に記した筆者の好きな数値のもう一つ、 「7」 についても触れてみたい。ラッキーセブン、筆者とは距離があるパチンコでは「777」、更に流布されている語句として、世界には七不思議、七大陸、そして七福神、虹は七色、芸能ではオクターブはドから始まる七音、ジェームズボンドの「007」、日本では七人の侍等など。そしてなんといっても筆者の名前には「七」が付くことから、極めて単純に「7」が好きだ。

 扨て、さて「8」に戻ろう。
 その昔、我が8歳の紅顔童子(?)の頃の記憶は殆どない。と言うことは今年80歳を迎えた筆者は、記憶がはっきりしてから初めて一番好きな歳を迎えたことになる。然し 何するでもなし、精々近所を散策することで円満具足を感じるこの我が身。名聞利養はとうに消え失せた今、これからは、何を求めたらよいのか……。

2025年2月
  随想119 迎えた新春は?

 年が明けて、早1か月が過ぎた。
 あなたは、今年もどのようにこの1年を過ごすか、思いを巡らされたことでしょう。
 考えてみれば、2025年は21世紀に入って四半世紀が過ぎたことになる。

 振り返れば、我われの少年、青年時代に目にした手塚治虫の鉄腕アトムは、2003年に誕生させ、ロボットの時代の到来を予言した。また、映画ブレードランナーでは、2019年にレプリカントと呼ばれる人間そっくりの人造人間が社会に潜伏し、その行いから2022年には人造人間の製造禁止令の発布が映し出されている。然し、現実は社会を含めて御存じの通り、政治も経済もまだまだ不確実性の中にある。

 扨て、科学は長足の進歩を遂げているとのことだが、これからどんな時代を迎えることになるのだろうか。しかし、どんな時代を迎えてもこの地球には変わらぬことがある。
 それは我われを乗せた地球号は、1年で9億4千万kmの宇宙を旅していることだ。
 この数字は、地球が太陽の周りを1周する距離だ。この速度は秒速約30km、マッハ90ぐらいだ。そして人間を含めた哺乳類は振り落とされること無く、息をし、生活を続けている。

 息する哺乳類、昨今は気候変動に負けそうになっているが、元気に心臓の鼓動を続けて欲しいものと、唯々願うのみだが…。その心臓はドクンと脈打つ、つまり心臓がポンプとして全身に血液を送り出していることを心拍と言うが、その数は一生の間に打つ回数を数えてみると、哺乳類はどんな動物でもほぼ同じ回数だ。

 例えば受精後19日で生まれるハツカネズミの寿命は2年強。一方、650日の妊娠期間を経て生まれる象の寿命は70年強、但し一生の脈拍累計数は双方とも、ほぼ一緒だ。

 言葉を変えれば、一般的に体が大きい動物ほど1分間の心拍数が少なく長生きで、それと反比例するように、体が小さい動物ほど心拍数が多く、寿命が短い。動物の世界にはこのように、心拍数と寿命の間に一定の法則があるようだ。因みに心拍数は一生で約15億回と言われ、少ないほど長生きができるというわけだ。
 例えばハツカネズミは、1分間に600~700回も脈を打つ。1回の脈拍に、たった0.1秒しかかからない。逆に、体の大きなゾウは、1回の脈拍に3秒もかかる。
 この脈拍1回にかかる時間を「心周期」というが、この心周期が違えば、呼吸のペースや食を口にしてから消化、排泄するまでの時間など、生きる上での所要時間がそれぞれ異なるということになる。
 では、同様にヒトに当てはめると脈拍数15億回というと、約27歳で寿命を迎えることになる。多少、次元は違うが、確かに頷ける数値がある。
 日本の平均寿命を時代と共に見ていくと、石器時代は15歳前後、古墳・弥生時代は10~20歳台、飛鳥・奈良時代は25~33歳、平安時代は30歳と言われている。そのヒトは、現代になって長寿を手にしているが、その理由は医療や文化の発展などからだろう。

 現代を生きるあなたは、自然の摂理より3倍もの期間を生きているのだ。
 今、健康に不安のある方、希望が持てない方、それは贅沢な悩みですぞ!!
 1年程前に心臓手術を受けた筆者、今生きていることに感謝しつつも……。
 『神様、許されることでしたらあと30数年程寿命を延ばしてください!!』
 そうなれば、ギネス最長寿記録を更新できますので……。

 えェ‥『だめです』か!
 そうですよね、
 80年もの間、無信仰を通してきたものには御利益は与えられませんよね!
 分かります、神様のお気持ちが…。

 こうした愚問愚答を自ら重ねて、筆者の正月が今年もスタートしました。

2025年1月
  随想118 沽券

 あなたが「沽券(こけん)に関わる」、と在職時に個人や所属機関を守るため、この言葉を発したことは何回もあったことでしょう。名誉や体面に差し障りが出るという意味で使われる慣用句だ。
 然しこの沽券、名誉や体面を意味するが、もともとは別な意味を持っていた。
 江戸時代、町人による市街地の不動産売買の証文を「沽券」と称し、所有者の権利を保護する機能を持つようになった。
 元々は不動産の売買証文であり、言葉としては平安時代から存在していた。然し、現在の登記に通じる「権利を第三者に示す」機能を備えたのは江戸時代からだ。

 江戸時代の前までは所有権の略奪がまかり通っていたが、一定の平和が訪れた江戸時代には「登記」の機能が確立してきた。明治5年、1872年には沽券の流れをくむ「地券」が登場し、併せて司法書士の前身である「代書人」が誕生している。この地券、単純に所有権を示すだけではなく、それまでの年貢に変わって土地に課税する動きとも結びついた。
 その代書人は法的な文書の作成を担う存在だった。その当初の業務はもっぱら裁判の訴状作成だった。代書人が土地に関する文書に関わるのは、1886年に登記法が整備されてからだ。

 昨年、2024年4月から相続登記の申請が義務化され、期限は3年以内に済ますことが明記された。正当な理由なくして申請を怠ると10万円以下の過料の対象となる。振り返れば、バブル崩壊後全国的に地価は下落し、更には2008年からは人口減少が本格化した。つまり不動産の需要が落ち込み始め、相続登記への関心も一段と薄れたことで未登録件数が増えてきたのだろう。
 そうしたことから価値が高いとされる不動産は、ほんの一握りの都心の土地であり、他のエリアの不動産は管理に費用や手間がかかる構図となっている。
 つまり多くの不動産は、かつては資産としてのイメージが強かったが、昨今では、一部の物件では負債としてイメージが多くなってきた。

 筆者も親から受けた尺寸之地を故郷に持つが、不動産屋に確認したところ二束三文の宅地、対する税金や委託する草刈り代は馬鹿にならないものだ。
 然し、親が苦労して手に入れた土地を簡単には売却もできず、悩むこととなっている。こうした中、子供たちからは面倒なことは御免だと、早期の売却を望まれている。親と子に、挟まれた心情を理解できるのは、我々世代が最後なのだろうか…。
 面倒なことから逃避したい気持ちはやまやまだが、何れ結論を出さねば…。
 星になるまでは、人間悩みは尽きないことを改めて認識するこの頃だ。